最高の彫刻家

塩田千春

塩田千春のアート・インスタレーションは、感情と言葉の間にある計り知れない溝について探求しています。記憶の力を想起させる素材として毛糸を使うのが、この日本人アーティストの多分野にわたる作品の特徴となっています。

塩田氏は、2016年のOcula Magazineのインタビューの中で毛糸の使用について発言しており、「やわらかいので、自分の心を映し出してくれるものとして使っています…」と語っています。「毛糸は緊張感を含む素材です。まるで人間関係を表すような素材です」。結果として塩田千春は、身体的および感情的な通路となるような、独特の領域を作ることで、自身の経験に取り組んでいるのです。

京都精華大学で学んだ後、オーストラリア国立大学キャンベラスクールオブアートに交換留学生として留学した塩田氏は、そこで絵画とパフォーマンス、身体を組み合わせることを目標に定めました。

塩田千春は、もはや芸術のための芸術では満足できなくなっていました。そこで塩田氏はドイツに渡り、アーティストのマリーナ・アブラモヴィッチ氏に師事し、師のもとで集中的に学ぶことにしました。ドイツ滞在中、塩田氏は、肉体と感情の閾値に挑戦するパフォーマンスを実践して評価されました。

アブラモヴィッチ氏との経験が、塩田氏の芸術活動にコンセプトと方法論の両方を明確に植え付けました。これにより塩田氏は、記憶とモノとのつながり、そして不在の力を何よりも優先させることにしたのです。この塩田氏の新たな姿勢は、地面に穴を掘り、そこに裸体で転がり込んだり出たりするパフォーマンス「トライ・アンド・ゴー・ホーム」(1997年)にはっきりと現れています。

位置の変化や正負の空間の影響力に対する塩田氏の興味は、ここから始まったのです。「アートとは本質的に視覚だと思います」と、塩田氏はOcula Magazineのインタビューで語っています。アートを知覚し、それから感情を感じ、最後に意義を見出すことが大変重要なのだ、と。

「始めから意味について思いつこうとする必要はないのです」。塩田千春がベルリンで制作した最新作は、パフォーマンス、彫刻、そして拾い物(糸の網に織り込まれることが多い)を使った空間でのスケッチが組み合わせられているのが特徴的です。

ミスマッチな靴のコレクションから、ハンドバッグ、ロングドレス、ボタン、日誌票、マットレス、そして門に至るまで、塩田氏が持ち込んだモノたちは、以前は別の場所に住んでいたものですが、ここでは個人的かつ集団的な心理的体験の大動脈として捉えられています。

塩田千春は、テッセレーションの糸かけで記念品を吊り下げることで、封じ込めと保護の両方について考えるよう、観客に促します。2015年のヴェネチア・ビエンナーレの日本館で展示された「《掌の鍵》 -The Key in the Hand」でも伝えられた感覚です。

「《掌の鍵》 -The Key in the Hand」では、真紅の糸が上昇流状のフォルム(プルーム)を作り、その中に斑点のように鍵が吊り下がっています。この波を逆さにしたようなプルームは、ボートの列の上を手のように漂っています。塩田氏の作品では、線と物質性が顕著なテーマとなっていますが、色も大変重要な要素です。

塩田氏が常時使用している赤色は、旅を象徴する色です。それは私たちの身体の動脈を巡る血の流れかもしれないし、日本や中国、韓国の伝統における、いわゆる「運命の赤い糸」を表しているのかもしれません。赤という色は、ポジティブさとメランコリーさの両方を兼ね備えています。例えば、赤い糸を使った作品「DNAからの対話」(2004年)では、観客は喪失感と変化の必然性の両方を感じさせられます。塩田千春の作品には、若い頃に祖国を逃げるように去ったことや病気に対処しなければならなかったことといった、自身の個人的な経験が反映されています。そうした作品からは、まるで一緒に共存しようと観客に促しているかのような、優しさや穏やかさを感じさせられます。